ファイ〜悪魔に育てられた少年

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邦題「ファイ〜悪魔に育てられた少年」(4月19日〜全国順次公開)
原題訳「ファイ〜怪物を飲み込んだ子供〜」


先ず「ファイ」というタイトルに疑問な人も多いと思いますが、これは主人公の名前。
韓国で最初に広告を見た時、知らない単語だったので速攻調べましたが勿論出てこないので戸惑いました(笑)


主演のファイ役には、2005年公開のヒット作「サッド・ムービー」というオムニバス映画で注目を浴び天才子役と呼ばれたヨ・ジング。
近年もドラマでJYJユチョン主演「会いたい」や、韓国で大人気のキム・スヒョン主演「太陽を抱く月」でそれぞれの主役の子役時代を演じていたが、今回の映画で子役というイメージを払拭し成熟した姿を魅せた。


殺人強盗集団のリーダーのソクテ役に中堅演技派俳優のキム・ユンソク。
「チェイサー」「哀しき獣」「10人の泥棒たち」など日本でも注目を集めた映画に出演しており、韓国でも日本でも人気が高い俳優だ。


日本公式:http://www.hwayi-movie.net/


<STORY>
3歳で殺人強盗集団に誘拐され、何も知らずに5人の犯罪者である父親に育てられたファイは、学校へは行かずにそれぞれの父親の持つ犯罪スキルを学びながらも心優しい少年に育ったかのように見えた。そんな時、初めて連れて行かれた犯行現場で銃を撃つように命令されたファイは幼い頃から時折現われる正体不明の怪物の幻想に怯え一度は失敗するが、別の現場で冷酷な父ソクテの迫力に押され遂に銃を撃って殺人を犯してしまう。しかも手にかけた被害者は実の父親だった。それまで幸せに暮らしていたファイにとって、その事実はあまりにも残酷なものだった。ファイの葛藤と5人の育ての親への復讐が始まる。


<レビュー>

ファイ役のヨ・ジングの演技力に脱帽。


前半の穏やかで優しい表情は誰が見ても普通の家庭で幸せに育った男の子である。(途中、尋常でない狂気を持っている事を彷彿させるシーンも必見。)
ある日、ファイは実の父親を殺してしまう。ここから物語は一転し、ファイはそれぞれの父親のスキルを全て身に付けた最強の凶器であり、復讐の為に怪物と化していく過程の演技を観るだけでも一見の価値がある。

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ソクテ役のキム・ユンソクの迫力。


ソクテも又、幼い頃からファイ同様に怪物を見ていた。ファイに対して一番残酷な父だったが、彼を一番理解していたのもまたソクテだったのではないかと思う。この二人が見ていた怪物は普通の生活では気付く事の無い人間全てに潜む闇の化身ではないだろうか。
最後の最後までファイを追いつめる姿はまさに怪物。さすがの演技力。
殺しても殺しても最後まで死なない役をやらせるなら、キム・ユンソク、もしくはチェ・ミンシクの右に出るものはいないだろう。

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アボジとアッパ


日本でも「お父さん」「父さん」「親父」「パパ」と呼び方があるように、韓国でも父親の呼び名に違いがある。
ファイが「アボジ」(お父さん)と呼ぶのはソクテのみ。他の4人は全て「アッパ」(親父、パパ)と呼んでいる。
この呼び名でファイとそれぞれの父親との距離感が分かる。
アッパ達と過ごすファイは素直で可愛く生意気な面も魅せるが、ソクテと接するファイは常に緊張感を持っている。
いつもは厳格な父、ソクテに頭をなでられた時、ファイが嬉しそうな表情を見せたのが印象的だった。



刷り込みで上書きされた真実と現実。


誘拐という現実に上書きされ消された「父親は五人しかも全員が犯罪者、母親は一人」という常識からかけ離れた非現実な環境。
しかしファイは自分が誘拐された事も、育った環境がおかしいという事も気付いていない。
私たちが住む世界も同様で、産まれる時に選ぶ事の出来ない親、国、教育…幼い頃から自分の置かれた状況で人格や考えはある程度形成される。
違う国の両親に育てられれば自然とバイリンガルになるし、強い信仰者であればその子もまた何も疑わずに親と同じものを信仰する。
国同士の抗争もしかりである種のマインドコントロールのようなものだ。誰も自分が間違っているなんて思っていない。
それでも人は自分の知らない世界に触れた瞬間、自分の育った世界が正しいのか間違っているのか分からなくなる時がある。
途中、ファイは一人の女子学生と心を通わせるが、彼女と自分が違う世界に生きているという事に気付いてしまう。とても切ないシーンの一つだった。


ファイが信じてきた世界=5人の父親が教えてきた世界。世間がどう見ようが、彼らにとってはそれが普通の世界だった。
それを壊したのも彼ら自身なのが皮肉な事実なのだが、この映画を見終わった後に考えさせられてしまった。

誰が一番ファイの事を愛していたのか、そしてファイは本当は何を、誰を信じたかったのか。




残念なのは邦題がナンセンスで極まりないという事。邦題だけみてしまうと、まるでホラー映画。
この映画には「悪魔」は存在しないし、劇中にも一言も出てこない。そもそもファイは「悪魔に育てられた少年」ではない。
まるで父親達を「悪魔」と決めつけたようなタイトル。原題の通り幻想の「怪物」が登場し「怪物を飲み込んだ少年」で良かったのではと思う。


監督はチャン・ジュナン氏。
彼の妻は私が大好きな女優、ムン・ソリ氏。(イ・チャンドン監督の映画には欠かせない存在。)彼女の話題は又いずれ。




韓国版ポスターは、殆どの映画がメインポスターとは別で主要キャストに焦点を当てた別バージョンを制作する。
この「ファイ」にも勿論存在し、それぞれのキャストの印象的な台詞がハングルで書かれているので、主要キャストがどんな人物かを想像するには良い素材。


"이버지들이 다 괴물인데. 너도 괴물이 돼야지."
(親父がみんな怪物なのに。お前も怪物になるべきだろう)


冷酷な犯罪集団のリーダー、ソクテ。この一言を何の感情も無く無表情でファイに伝えたシーンはゾッとした。
冷酷な性格だが愛情を受けて育たなかったソクテは愛情の表現の仕方が分からなかった。
自分と同じよう育てる事がファイにとっての幸せだと本気で思っていたのかもしれない。

ソクテ

"화이는 우리랑 달라. 이대로 키울 순 앖어."
(ファイは俺たちとは違うんだ。このまま育てる訳にはいかない)


犯罪プランナーであり常識者のジンソン。ファイを犯罪者にはせず、普通の人間として父育てようとしたアッパ。
絵の才能を発揮するファイを留学させ普通に育てる事を願ったジンソンだったが、一番始めにファイの手にかかってしまう。

ジンソン

"화이야. 하..하..할 수 있지?"
(ファイ、で、、で、、出来るよな?)


カーチェイスと得意とするギテ。だらしない部分もあるがファイにとっては優しいアッパ。
ファイに謝罪し、復讐を止めようとしたのはこのギテだけだった。

ギテ

"한 번에 죽여야 돼. 안 그러면 넌 백프로 주어."
(一度で殺せ。出来なけばお前が100%死ぬぞ。)


スナイパーのボムス。クールで友達のようなアッパ。5人の父親の中でも陰が薄い方だが、ファイの射撃力は彼譲り。

ボムス

"근데 화이…처음부터 그러려고 데려온 거지?"
(ところで、ファイの事だが、、、最初からこうしよう(犯罪者にしようと)と連れてきたんだろ?)


残酷な現場ほど楽しむ狂気のアッパ、ドンボム。ファイが豹変する事さえも面白がる人物。完全にイってます。

ドンボム

そしてファイ。


"아버지. 왜 절 키우신거에요?"
(父さん、何故僕を育てたんですか?)


最後まで葛藤し続けるファイの苦悩がこの一言に現れている。

ファイ


最後に絵を得意としたファイが書いたであろう家族の絵。
これがファイの描いた幸せな世界だったのか。

イラスト

韓国映画の楽しみの一つは、この公開前の広告媒体だったりもします。日本ではこういうプロモーションは殆どありません。今後も韓国映画を紹介する際は韓国でしかみられないポスターも取り上げていこうと思います。


<追記>
主要人物があまりにも濃過ぎて(苦笑)日本の公式HPなどでは紹介すらされていないのが残念だが、この映画には日本にも根強いファンを持つ映画「オールドボーイ」でデビューし「建築学概論」「オオカミ少年」で助演ながらも存在感抜群の演技を見せた若手俳優のユ・ヨンソクも出演している。昨年はヒットドラマ「応答せよ1994」にも主要キャストに選ばれ今後も期待される若手俳優の一人。これまでの出演作品も癖のある役が多かったが、この作品でも良い味を出しているので鑑賞される方には是非注目して欲しい役者。


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