海にかかる霧

邦題「海にかかる霧」
原題「해무(海霧)」



ポン・ジュノ × シム・ソンボ監督
キム・ユンソク × パク・ユチョン主演

韓国映画好きにとっては待ちに待った作品であり、そこに日本でも多くのファンを持つパク・ユチョン氏がキャスティングされているので、多くの人がご覧になる作品になる事が予想されますので出来るだけ深く内容には触れずにご紹介したいと思います。



<Story>
不況にあえぐ漁村。6人の乗組員を乗せたチョンジン(前進)号は、一発逆転の大漁を狙って出航するが叶わない。切羽詰まった船長は、中国からの不法移民の密入国を手伝う、という闇ルートの仕事を引き受けてしまう。沖合で密航船と合流し、密航者たちを乗り換えさせて陸へ運ぶ。容易く思えた計画は、海上警察の調査、悪天候に阻まれ、思いもよらぬ事態に堕ちいって行く…。(引用:「海にかかる霧」公式HP←click)

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<レビュー>

「殺人の追憶」のポン・ジュノ監督の初製作&同作品脚本家シム・ソンボ初監督作品
「殺人の追憶」は全世界でも映画ファンに認められている名作中の名作であり、この二人がタッグを組んだ事に加え
①2001年に実際に起きた出来事を描いた人気舞台作品の映画化
②韓国映画界を牽引する名優揃いのキャスティング
③パク・ユチョン(JYJ/東方神起)のスクリーンデビュー作。しかも濡れ場有。
などなど…公開前から本国でも話題が多かったものの実際には同時期に公開された超大作(「海賊」「鳴梁」の2作)に押されて正直大ヒットとまではいっていない。(個人的にはその中でも一番好きな作品でしたが。)ポン・ジュノ監督がメガホン取っていたらもう少し演出が違っていたかもしれないなと思う部分も勿論あったが、非常に韓国映画らしく予想を何度も裏切られる大胆なようで緻密なストーリー展開は流石。

本作の基になったのは2001年に韓国の麗水(ヨス)で起きた密航事件。内容についてネタバレになるので記載はしないが、実に残忍な信じがたい事件である。ポン・ジュノ監督の作品は実際の事件が題材になっていることが多い。名作「殺人の追憶」は1986〜1991年に起きた華城連続殺人事件、「グエムル〜漢江の怪物」は2000年に在韓米軍が大量のホルムアルデヒドを漢江に流出させた事件など、時代ごとの事件を取り入れており、韓国社会の闇を大胆に描いている。



穏やかな序章。6人の船員達の日常。
本編は船員達各々の生活や船上での日常シーンから始まる。上にあげているポスターの一枚は、そんな船員達の集合写真だ。

浮気をしている妻には何も言えないが、チョンジン号や乗組員には船長としての役割を全うするチョルジュ(キム・ユンソク)
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祖母と二人暮らし、船員になったばかりの心優しい普通の青年、末っ子のドンシク(パク・ユチョン)
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船員たちを優しく見守る年老いた機関長ワノ(ムン・ソングン)
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動揺を見せることなく何事にも冷静な甲板長ホヨン(キム・サンホ)
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女好きで執着心が強く思考回路が単純なチャンウク(イ・ヒジュン)
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女と金好きで、いつもチャンウクを出し抜くギョング(ユ・スンモク)
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性格も年代もバラバラではあるが、同じ船に乗り共に生活をする家族のような乗組員たちの貧しくも穏やかな生活が丁寧に描かれている。これから起こる事など誰一人と想像もしていなかったであろう前半のこの船員達の姿が、その後の極地に立たされた時の人間の変貌振りを引き立たせる秀逸な序章である。演じるのは文句つけようの無い演技派俳優ばかり。

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船員ドンシクと密航者ホンメの愛
もう一枚のポスターの二人の陰はドンシクとホンメの出会いのシーン。
一番若手の船員ドンシクは最初の出会いからホンメ(ハン・イェリ)に惹かれる。
警戒しつつも徐々にドンシクに惹かれるホンメ。韓国に無事到着しソウルで再会を誓う二人。
クランクイン前から二人が肌を合わせるシーンが話題となっていたが、そのきっかけとなったのは、「愛している」という快感を求めるためでは無く「生きている」という事を実感するための、非常に切なく、物語の中に無くてはならないシーンだった。
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真の俳優へと成長したパク・ユチョン
2009年まで東方神起のメンバーであり現在JYJとして活躍する彼は本国で「トキメキ☆成均館スキャンダル」「屋根裏部屋の皇太子」をはじめ計6本の人気ドラマに主演。史劇から現代劇まで幅広い内容に対応出来る演技力、表現力が高く評価されていた。
そんな彼がアイドルとしてのイメージを全て崩しかねない役柄だったにも関わらず、この映画のために体重を増やし、訛りのある台詞や濡れ場さえもこなし、完璧な田舎の青年になりきりった。そして他の名優達に一歩も引けを取らない堂々としたスクリーンデビューを飾った。日本ではユチョンのファンとして見に行く方々も多いだろうが想像している彼の姿は映画の中には一切出てこないだろう。逆に何も知らずに見に行った人は彼がかつて東方神起のメンバーだったと気付く人がどれ位いるのだろうか。それほどまで彼は作品の中でドンシクとして生きていた。

パク・ユチョンは本作で、強力なノミネート陣が多くいる中、韓国の2大映画賞である青龍映画賞、大鐘映画賞の新人男優賞をはじめ2014年度の国内映画新人賞を総ナメした。受賞に値する演技ではあったが、前述したように映画そのものが大ヒットとは言えなかった為、正直難しいのではと思っていたが、結果は文句無しの総ナメ状態。それだけ見応えのある演技だったということだ。彼がスクリーンデビュー作として「海霧」を選んだことにより、アイドル出身の”演技ドル”としてでなく役者パク・ユチョンとしての存在を確立させた。ユチョンは現在韓国で放映中の主演ドラマ「匂いを見る少女」でも女心をくすぐる演技を見せて話題となってる。ドラマの撮影終了後の入隊が予想されているが、入隊後に公開になるであろう現在撮影中の映画へのカメオ出演も決まっており、兵役後もドラマ・映画ともに出演依頼は絶えない役者になるだろう。



<ポスター紹介>
相変わらず、韓国のポスターはキャッチコピーの一言でキャラクターが分かり易い。

「この船は俺が責任を取る。」
反発をする密航者に対し、チョルジュが突然「この船では俺が大統領であり判事であり父親なんだ!」と大声を出すシーンがある。少しずつチョルジュの狂気が垣間見えて来る。彼の船に対する執念は最後の最後まで、海の底よりも深かった。
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「俺が最後まで守ってやる」
家族の様な存在だったはずの仲間達が狂って行く中、頼りなかった末っ子のドンシクはホンメを守る為に本来の自分を見失うことなく、人間として男として成長して行く。
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「人命が優先だろう」
ドンシクを特に可愛がっていたワノ。心優しい上に老いも重なってか、目の前の事件を受け入れきれず良心の呵責に負け精神的に真っ先にダメージを受けてしまう。
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「何事もなかったんだよ」
とにかく全てを無かった事にしようと、どこまでも船長に従うホヨン。
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「女もいるだろ?」
男の本能の塊で、欲張ろうとすればする程に損する残念な男チャンウク。
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「金、いくらくれるって?」
飄々としていて美味しい所を全て持っていくギョング。それは極地にたたされても変わる事はなかった。
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「無事にたどり着けるのよね?」悲惨な事故の後に頼れるのは目の前にいるドンシクしかいなかったホンメ。彼女は無事に韓国へ足を踏み入れる事が出来るのか。
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最後のシーンは色々な意見が出る事でしょう。
韓国版のDVDには本編をシム・ソンボ監督と船員6名+ホンメ全員で見返しながら雑談するという副音声が入っていて、それがまた面白い。色々な裏話や思い入れ、見解をはじめ、主要キャスト以外の少ししか出番の無いドンシクの祖母、チョルジュの妻、その浮気相手他、細かい配役も監督自身が尊敬している舞台/映画中心に活躍する俳優を使ったとの事。
また、特典映像では未公開カットが含まれており、最後のシーンに入らなかったカットを見る事が出来るのですが「ああ、このシーンを入れるのと入れないのでは確かにその後に続くラストの印象が違うなー」と感じたり…。


最後に…私は字幕版無しでしか鑑賞していないのですが、予告版を見る限り訛りのニュアンスまでは翻訳されていません。そこが伝わればもっと面白いと思うのですが、訛りを文字で表すのは、逆のパターン(日本の方言→外国語)を考えても困難ですよね。なので、鑑賞前にこちらのページを見られた方は、何となく字幕と方言独特のイントネーションを脳内変換しながら(笑)ご覧頂ければと思います。